禁酒の夢破れた男を魅了する酒の正体

男は自らの失敗により一度は禁酒を試みたが、いざ良い酒を前にしてはその思いも儚く崩れ去り、今ではむしろ以前よりもその熱は増していると言えた。最近はジャパニーズウイスキー以外にも手を出し始めていた。

「うーむ、流石はジャパニーズの源流となっただけあって、スコッチは俺に良く合うな」

代表的なスコッチウイスキーを目前に並べて、一つ一つ味わっていく。ウイスキーは単一の蒸留所にて大麦麦芽(モルト)のみで造った『シングルモルト』と、複数のシングルモルトに穀物(グレーン)も混ぜ合わせて造った『ブレンデッド』に大別できる。

シングルモルトは蒸留所の個性が強く表れており、ブレンデッドは調和の取れた味わいが特徴と言える。

その中でもスコッチが持つ大きな特徴と言えるのが、泥炭(ピート)だ。麦芽を乾かす際に泥炭を燃やして燻すことで、その煙の匂いがウイスキーに反映され、スモーキーなどと呼称される味わいや香りとなる。

特にスコッチにはシングルモルトの中でも更に個性的な味が揃った、アイラウイスキーと呼ばれるものがある。スコットランド南西にあるアイラ島、そこに存在する八つの蒸留所で造られたウイスキーを指す言葉だ。

海藻や薬のような強烈な匂いや味わいが特徴だが、にもかかわらず世界中のウイスキーファンを惹きつける。
それは男に対しても同様だった。彼は気が付けばアイラウイスキーを好んで飲むようになっていた。

「初めこそ何だこれはと思ったが、今じゃむしろこの癖が心地良いな」

ただ、男は食事時の一杯としてはジャパニーズを飲むことが多かった。ジャパニーズはスコッチから大きな影響を受けていながらも、泥炭を用いない蒸留所も多い。

その理由としては、日本人らしい淡麗で清水のような味わいを目指している為であろう。それゆえ、どんな食事にも合わせやすいというわけだ。

そのように男はウイスキーに関してはかなり詳しくなってきており、更にはワインにまで手を出そうとしていた。

「ワインは赤白ともに品種の種類だけでも膨大だな……まずは基本的なところから覚えていきたいところだが」

男は複数の品種を混ぜ合わせたものではなく、単一の品種を用いたワインを買い揃えた。

赤ワインの品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ピノ・ノワールなどが、白ワインの品種はシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなどが並んでいる。

ワイン生産の歴史が新しいチリやアメリカ、日本といった国は『新世界』と呼称し、昔からのフランスやイタリアなどは『旧世界』と呼称する。

新世界で造られたワインには単一品種のものが多く、値段も比較的安い。その為、それぞれの品種の味や香りを覚えていくにはちょうど良かった。

「さてさて、飲み比べをしていくとしようか」

このようにして、男は酒の更なる深みへと嵌まっていこうとしていた。